米国株投資家であればIntuitive Surgicalを知っている人は多いと思います。手術支援ロボットのda Vinciで急成長し、この10年間で株価が6倍になったヘルスケア企業の急先鋒です。
しかし近年da Vinciの主要な特許が切れ始めており競合品の開発が可能になり市場規模拡大はさらに加速して大きくなる可能性があります。
まさに今はロボット支援手術戦国時代の幕開けとも言えます。
その中において市場の拡大や特許切れなどを受けて世界中の企業が開発を競っていますが日本からも複数の企業が名乗りを挙げています。
そもそもとして、産業用ロボットの世界ではファナックや川崎重工業、ヤマハ発動機、パナソニックなどがこの分野を牽引しシェアは世界一となっています。
これらの技術力や日本人の細やかさなどをうまく取り込めば世界で戦える手術支援ロボットを開発することができるかもしれません。
JNJやISRGに投資する場合、競合となりうる日本企業は押さえるべきと思います。
そこで今回は日本発でロボットを開発する下記3社について情報をまとめてみました。
既存の手術ロボットの課題
da Vinciによって広まったロボット支援手術ですが課題は多くあります。今後の手術支援ロボットはこれらの課題を解決したり、今までとは異なる新たな価値を生み出すことでda Vinciの牙城を切り崩せるかもしれません。
コスト
日本ではda Vinciの最新機種だと本体が1台2億7千万円、年間保守に数千万円、一回の手術に数十万円のコストがかかります。日本においても保険適用がある術式は少なく本格的には広まっていません。エビデンスや競争の不足によってコストは高く厚労省や医療機関が乗り気ではないのが原因です。
今後のさらなる市場拡大にはコストダウンが必要条件となっています。
機能の改善
アーム同士の干渉、触覚が無い、スペースが取られる、準備時間が掛かる、などda Vinciも機能面は完璧ではありません。さらに洗練され、外科医や医療従事者にとってよりconfortableな機器やシステムが求められています。
術者のトレーニング
今のようなアーリーアダプターのみが取り組むフェイズからさらに一般化するためには医師の技術力上が求められます。ロボット手術にはラーニングカーブ(技術習得するまでの期間)がある程度存在します。今後はラーニングカーブを短くするような機器自体の改良やシステム開発、サービス体制の整備が求められると思います。
化学物質である医薬品の後発品と違い、医療機器の後発品には先発品とは明らかに違うという差別化が必要になります。
それぞれの企業の取り組みは面白いですのでいくつか紹介していきます。
株式会社メディカロイド
~da Vinciとガチガチの競合?~
どんな会社?
株式会社メディカロイドは2013年設立で川崎重工業株式会社50%、シスメックス株式会社50%の合同出資会社です。
川崎重工業は1969年に国産初の産業用ロボットの生産を始め業界をリードしてきた老舗です。
シスメックスは血液凝固検査など検査機器で世界トップシェアを持つ海外売上比率80%を超える日本のヘルスケア企業。
異業種の2社がタッグを組み、2020年の上市を目指して開発を行っています。
上記写真は川崎重工業の産業用ロボットですがda Vinciなどの医療支援ロボットに近しい容姿をしているのが分かります。僕はロボットに関する知識は何もないのでそれ以上のことはよく分かりませんが、、、。
川崎重工業が持っている複数のアームを干渉させることなく協調動作させる技術、クリーンな環境で動かす技術、画像認識と組み合わせて動かす技術、これらはすべて医療用ロボットに生かせると自信を表しています。
開発コンセプト
製品の全容は明かされていませんが、開発コンセプトとして下記の4点を挙げています。
(1)フレキシブルなモジュラーシステム
コストや設置場所などの点で柔軟なシステムを目指す。
(2)コンパクト・機能的で安全なロボットアーム
da Vinciに比べてコンパクトなロボットアームを既に実現。多関節で動作し、折りたたむことができる7軸のアーム。
(3)次世代型コンソール(操作部)
川崎重工が手掛ける鉄道車両用コンソールのノウハウを生かし、長時間使い続けても疲れないコンソールを実現。今後は触覚(フィードバック)機能や自律機能も搭載する狙い。
(4)ネットワークサポートシステム
術前セットアップ支援や術中バックアップ、術後システムチェックなどに活用する。現行のロボット支援手術は術前セットアップに時間がかかるといい、その解消につなげる。
実際に知り合いの外科医がメディカロイドの手術支援ロボットを試用し、その完成度の高さに驚いていました。操作感で言うとda Vinciを上回っていたそうです。
また、体内を4次元的に可視化する技術に長けるZiosoftと手を組むことが報道されています。まだどのような機能かはわかりませんが、差異化になるかもしれません。
https://www.zio.co.jp/news/371
まだオープンになっている情報は少ないのでどのような領域に、どのような価格帯でといったようなことは分かりませんが、da VinciやVerb Surgicalにとっての脅威になる可能性は十分にあると思います。
ヘルスケア領域において日本の存在感は低いです。日本人としては国産の手術支援ロボットを応援したいところでもありますね。
株式会社A-Traction
~da Vinciとはタイプが違うニッチ領域特化型~
国立研究開発法人国立がん研究センターの認定ベンチャーで2015年に設立された法人です。
消化器腫瘍の外科手術の中でもTaTMEに特化した手術支援ロボットを開発しています。
TaTMEとは腹部側、肛門側の双方からのアプローチにより、直腸の腫瘍を切除する術式です。
術者の視野確保や、臓器の牽引・テンション維持など術者をサポートする助手の機能に特化するというコンセプトで開発されています。
da Vinciは外科医が遠隔操作して手術するマニピュレーター型のロボットですが、A-Tractionが開発するロボットはあくまでも外科医が手術を行い、ロボットはそれを補助する協働者という位置付けです。
手術自体ではなく、それを補助する役割という点でda Vinciとの棲み分けがなされています。
診療科も消化器、術式もTaTMEに限定されていますのでda Vinciや他の手術支援ロボットとは競合しないニッチ分野のロボットと言えるでしょう。
価格も抑えられ本体も小さいコンソールが出てくることが想定されます。
今後もda Vinciの様な汎用型の手術支援ロボットではなく、A-Tractionが開発するロボットのように特定の診療科の特定の術式に特化したニッチ手術支援ロボットが次々と生まれてくるかもしれません。
リバーフィールド株式会社
〜あくまで手術の補助に特化〜
どんな会社?
2017年に設立されたベンチャーで、東京医科歯科大学の生体材料工学研究所の川嶋健嗣教授が代表取締役に就いています。
空気圧駆動型 内視鏡ホルダロボット EMARO
治療用の手術支援ロボットは2020年の上市を目指していますが、EMAROという内視鏡手術に使う内視鏡を保持するロボットが既に発売され国内の数施設で稼働しています。
内視鏡を保持し、手術者がジャイロセンサーを用いて両手を使うことなく内視鏡を自由に操作できる機器です。
また、マスター側とスレイブ側に別れ、ロボット鉗子を遠隔で操作することによって開腹をせずに難しい手術を可能にする手術支援ロボット(開発名アイビス) の開発を行っています。
操作する術者に手技の感触を伝える点にこだわった開発を行っています。
これはda Vinciなどでもクリアできていなかった点で、さらなる手術の質の向上や安全性の担保につながる可能性があります。
オリンパス
~AIとICTを駆使した壮大な次世代手術構想~
どんな会社?
異業種のオリンパスが参入する?と思われるかもしれませんが、実はオリンパスは内視鏡部門で世界に知られている医療機器メーカーです。今の若い人はオリンパスのデジカメなんて知らないかもしれませんが、、、。
今は売り上げの8割程度が内視鏡や外科用の治療器具医療機器で、海外売り上げ比率が8割程度のグローバルメーカーです。
特に北米での比率が30%以上、欧州が20%以上と医療の中心である欧米で受け入れられています。
元々は内視鏡で世界に出てトップシェアを取っており今ではエネルギーデバイスなどの外科手術の売り上げも伸ばしています。
手術支援ロボットも含め、次世代の外科手術の実現を目指しています。
そのあり方として『Information Rich』を掲げています。
???
そのコンセプトは会社のホームページに細かく纏まっているのでそちらを参照してもらえればと思いますが、大きく2つあります。
1つは判断支援
経験豊富な医師の経験をAIによって蓄積し臓器や病変部位を示したり術者が次に行う処置、例えば切開する場所を提案するといったコンセプトです。熟練の医師がそっとアドバイスしてくれるようなイメージでしょうか。
もう1つは情報統制
術式のステップに応じて必要な情報を的確に提示するコンセプトです。
外科手術は数多くの手順があり、その手順によって求められる情報や使う機器、操作などが異なります。
これらの情報統制を整えて必要な情報や画像、動画などをタイムリーに提示するなどすることによって手術自体を効率化し、安全化し、成績を良くするという狙いがあり、ロボット支援手術はその中の一角として組み込まれています。
また元来カメラメーカーとして持っていた4Kや3D、手振れ補正などのテクノロジーは自社で応用・開発し、その他のAIやロボティクス、ICTは他と手を組むオープンイノベーションを掲げ産学連携プロジェクトをオリンパスが統括し推し進めています。
まとめ
この様なロボットは世界の工場であるアジアでの需要が多く、日本や最近では中国の企業の存在感が増しているそうです。
医療というカテゴリーでは欧米が世界をリードしていますが、ロボット技術で言うと日本は世界を狙えるかもしれません。
手術支援ロボットというカテゴリーではIntuitive Surgicalが20年という長い年月リードしてきました。その中で上げた莫大な利益とそれの再投資によるテクノロジーの積み増し、業界のパイオニアとして築いてきた医療従事者との信頼関係やブランドイメージは非常に大きいと思います。
しかしメディカロイドや他の日本企業もその技術力の高さから少なくとも日本市場、更には世界市場でも高シェアを狙えるダークホースになりうるかもしれません。
Intuitive Surgical、JNJなどに投資するのであればこれらの第三極の存在感も注視すべきだと思いますので纏めてみました。