たーの投資日記

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Johnson & Johnson(JNJ)銘柄分析 -概要編-

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今回は米国ヘルスケアセクターの雄であるJohnson & Johnson(JNJ)について市場・会社・競合の観点で特徴を簡単にまとめました。この記事ではこれらの概要のみであり、詳細な分析は別で今後まとめますのでそちらをご参照ください。

tonryman.hatenablog.com

 

Point!

JNJは総合ヘルスケア企業で多領域にわたり規模も大きいので、これを押さえればヘルスケア全体の理解につながると思います。

 

 

CUSTOMER(市場)の特徴

  • 世界、米国人口は拡大傾向
  • 医療コストダウン圧力は増大傾向
  • 高度な医療の実現が求められている

欧米先進国、特に米国の人口増加に相関

JNJはグローバル企業である一方、米国内での売上比率が半分を占めています。世界人口も米国人口も今後は数十年間は増え続けることが推定されており、ヘルスケア全体の市場拡大は続くことが想定されています。

しかし注意しないといけないのはJNJが扱う製品は高機能・高価格のラインナップが多いので、新興国の人口増加にはあまり影響を受けません。米国ヘルスケア企業の売上比率は米国の割合が多いことからも分かりますが、医療材料に多くの対価を支払える米国や先進国の人口拡大や医療環境の変化が収益に大きな影響を与えます。確かにアジアやアフリカでは人口が急激に増えていますが、新興国での販売価格は先進国よりも低く、高収益化による株主還元を追求するJNJが受ける恩恵は限定的であると言えます。

また米国は増加傾向はあるものの欧米で見た人口は下記のUnited Unionの資料の通り増加傾向は遠くない未来に止まります。

そのような人口動態変換期にJNJがどのような事業転換をするかは重要なポイントになります。

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UN "World Population Prospectd"より引用

 

医療費高騰に対する政治的なコストダウン圧力の拡大

日本でも小野薬品工業が開発したがん免疫薬のオプジーボが話題になったりしていますが、米国でも高額化している医療費が社会問題になっておりトランプ大統領も医療のコストダウンを高らかに掲げています。

日本においても社会保障費の増大は問題になっており今後の超高齢化社会ではさらに追い風は強くなります。

需要側と供給側のバランスだけではなく政治的な要因によって収益性に影響を受ける可能性がある点がヘルスケアセクターの市場性とも言えます。

このような市場特性を踏まえると、今後はヘルスケアセクターは2極化していくと思われます。それは革新的な技術によって常に新しく価値の高い製品を生み出し高価格を納得させるような勢力と、後発品や類似品によってコストダウンを助ける勢力です。

しかし前者のかじ取りも簡単ではありません。医療のニーズが飽和しつつある現在において高い価格が付く製品の開発は簡単ではありません。JNJも20年前は新商品の割合基準が30%でしたが今では25%に下がっていることからもわかるように新商品の開発がいかに難しくなっているかということがわかります。

その実現には規模の経済は必須であり、研究開発費の積み増しや買収・合併が必要となってきます。それに対応できない中途半端なプレーヤーは生き残れなくなり脱落していくことになるかもしれませんのでそれを踏まえた投資が求められるかと思います。

japanese.cri.cn

 

高付加価値な医療の実現「バイオ医薬」「低侵襲化」

今の時代では多くの病気は治る時代になってきていますので、病気を治すだけの医薬品や医療機器ではなくそれに付加価値を加えた製品市場になります。

別の視点で見ると顧客である医師や医療従事者、その先にいる患者が多くの対価を払ってでも使いたいと言う製品を生み出しています。

そのトレンドとしては「低侵襲性」の高い治療用医療機器や、有効性と安全性を同時に実現することが期待できる「バイオ医薬品」などがあります。

医薬品や医療機器の上位企業を見てみるとその傾向は顕著です。医薬品の売上上位銘柄は大半がバイオ医薬品ですし、医療機器のほとんどの治療機器は低侵襲化がキーとなっています。

 

一般消費者

JNJが他のヘルスケア企業と異なるのは一般消費者向けのラインナップを多く持ち、ブランド力を持っている点です。

 

COMPANY(自社)の特徴

Johnson & Johnson(JNJ)は自社のホームペジの中でも下記のような自社の強みを掲げています。

  • バランスの良い事業分散
  • 研究開発力の高さ
  • 分社分権経営による迅速な経営判断
  • ブランド力と外部からの評価

 

特に重要だと考えられる上の2つを少し深掘りします。 

安定成長を可能にするバランスのとれた幅広い事業ポートフォリオ

JNJの最も大きな強みはヘルスケアの中で多領域に事業を持っておりポートフォリオ効果によってリスクを分散し安定的に成長している点にあります。これらの事業が組み合わさることで各事業が独立して経営するよりも安定し高い成長を可能にしているのが特徴と言えます。

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JNJで最も収益性が高いのは医薬品事業ですが、一般的に医薬品開発は費用がかかる一方で臨床試験が成功し売り上げに結びつくのはごく一部のみであり、特許が切れれば後発品が出て収益が極端に減るハイリスクハイリターンの事業と言えるでしょう。

医薬品メーカー大手のPfizer(PFE)でも2010年代前半に特許切れにより売上を減らし続けた時期があります。JNJの医療機器事業やコンシュマー事業の収益性は医薬品事業に比べると低いですが安定性があり、医薬品事業のリスクをカバーする緩衝材のような役割を持っていると言えます。

また売上規模としては小さなコンタクトレンズなどの一般消費者向け事業を続ける理由として、その利益を医薬品などの高付加価値な製品群の研究開発費に充てるという総合メーカーとしての戦略もあります。

同様の形態を持つ企業としてAbbott Laboratolies(ABT)がありましたが、2013年に新薬開発に特化し収益性の高い新薬メーカーとしてABTからAbbVie(ABBV)が分社しました。ABTはJNJとは逆の考え方で、安定性のある医療機器(+後発医薬品)とハイリスクハイリターンの新薬事業を分離することで株主の投資判断をシンプルにすることを狙っています。この判断は年間約200億ドルを売り上げて全体の6割以上の収入を稼ぐことになった大型ブロックバスターHUMIRA®の存在に起因しています。

「え、売上が多いんだったらいいのでは?」

と思うかもしれませんがHUMIRA®は2018年にEUの特許が切れ、22年に米国での特許切れが迫っており他社から類似品が発売されるとどの程度の影響を受けるか読めません。先に切れたEUでは4割程度売上が落ちており、それを全体に当てはめると大体70~80億ドルのインパクトと想定できます。しかしその収益減は不明確であり、またその影響を織り込むのは難しく、ディフェンシブな銘柄に投資したい投資家にとっても成長銘柄に投資したい投資家にとってもABTへの投資判断が難しくなってしまいます。

こういうことから、分社することで同じヘルスケア領域への投資でも安定性の高いディフェンシブな銘柄を好む投資家にはABT、成長性を期待する投資家にはABBVを選んでもらうことによってトータルとして大きな投資を受け入れることが狙いとなります。こう考えるとABTがとった戦略は当然であり賢明だということができますよね。

JNJとABTの経営判断を分けたのは医薬品事業のポートフォリオにあると考えられます。ABTが6割を占めるHUMIRA®1薬の売上に医薬品事業が大きく依存していたのに対し、JNJは疾患領域も幅広く分散されておりREMICADE®などのブロックバスターの特許切れを補う新薬の開発や育成にも成功しています。もちろん複数の事業を抱えると操業が難しくなるのでどの企業も真似できるものではないと思います。

幅広い収益基盤を持つJNJの企業形態と規模はヘルスケアセクターにおいて唯一無二であり、成熟企業であっても「成長性」と「安定性」を同時に実現することができる要因だと言えます。

高い収益性を実現する研究開発力

高い新製品割合

JNJでは成長なしに企業の存続はありえないという意識が強く、縮小路線上で利益を獲得するという考えは一切ないと言われています。

JNJが定義する新商品は開発5年以内の製品であり、現在は新商品で売上の25%以上を占めるというルールがあり、その実現のために医薬品事業においても医療機器事業でもトップクラスの開発費を費やしています。

積極的な事業買収・売却

また自社主導の開発だけではなく企業買収・合併や他企業とのコラボレーションも積極的に行い研究開発を効率化しています。2017年にはスイスのActerion社を現金約3.4兆円で買収したのは記憶にあたらしいと思います。

 

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主な買収・売却



買収される側の企業としても自社のみで事業展開を行うよりJohnson & Johnsonの冠を得た方が開発効率も販売効率も高くなるため双方にメリットがあると言えます。

上のActerionの買収も割高だと言われていますし、歴史的にもJNJは割高と言われる買収を多く行ってきていますが、グローバルな視点で見ると米国は人口が多く医療の中心であり、このような豊かで有利な市場を基盤として事業を育て、世界に展開していくことで事業の成功率を高めることにもつながります。

製品のProduct Life Cycleで言うとキャッシュフローを多く生む導入期や成長期のラインナップを充実させ、市場が大きくなり競合が出てきて収益性が下がる成熟期や衰退期に入る前に迅速に手を引く戦略を徹底しています。10兆円、20兆円といった規模を追求するのではなく利益率の高さを追求する姿勢が伺えます。

このような収益性の高い革新性のある開発を実現させることによってフリーキャッシュフローをより多く生み、投資家に還元したり外部評価を高めることができています。

バイオ医薬品と低侵襲治療機器への投資

開発の方向性としては有効性・安全性が高いバイオ医薬品や患者の体への影響が少ない低侵襲治療機器などに集約されてきています。

医薬品事業における開発費は2019年には88億ドルでしたが、今後もトップファーマの中でも研究開発の伸びは高く、2024年には99億ドルを費やすことが予測されています。もちろんこの額がそのままその後の収益に相関するとは限りませんが、これだけの研究開発費を拠出できるのは企業としての力がある証拠であり、他と比べて有利であることは間違いありません。

 医薬品事業の開発動向

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上のグラフは各米国医薬品メーカーの売り上げと研究開発費の売り上げにおける比率の比較です。Gilead Sciences(GILD)が91億ドルを超えて売上に占める割合は40.56%と突出して高くなっていますが、JNJは売上が300億ドルを超えるメーカーの中ではMerckと並び約21%と最も高い比率となっています。しかしJNJが突出して高いわけではありません。

 医薬品パイプライン

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上は現時点での医薬品パイプラインです。主力領域であるがん領域、自己免疫疾患領域に加えて、買収によって手にした肺高血圧領域の開発項目が多くなっています。

http://www.investor.jnj.com/_document/jnj-pipeline-1q2020?id=00000171-7885-df15-a17d-7c95dc590000

医療機器事業の開発動向

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上のグラフは医療機器事業における研究開発費と競合との比較です。

医療機器企業や事業の売上における研究開発費の割合は医薬品事業と比べて低いのがわかります。これら医療機器メーカーのトップ企業と比べても高い割合で売り上げから拠出していることがわかります。

医療機器事業でいうと手術支援ロボットをAlfabetGoogle親会社)のグループと共同で行っており近年中に上市が予定されています。 

COMETITOR(競合)の特徴

  • 医薬品はメガファーマやバイオ医薬品企業が競合
  • 医療機器の競合は一部総合メーカーと多くの専門メーカーが競合

 

JNJの競合は医薬品メーカーと医療機器メーカーが主たるものになります。コンシュマー事業に関しては売上割合も少なく競合も多いため細分化されかなり細かくなってしまうので今回は割愛します。

JNJは多領域に渡りますので競合も数多く存在します。

医薬品メーカーの競合

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JNJは新薬を多く手がけますので他の新薬メーカーはもちろんですが特許切れ製品のジェネリックやバイオシミラーを製造販売する医薬品メーカーも競合となります。医薬品事業は競合関係もあれば、共同開発や販売を行う関係もあるので一概に関係を評価するのは難しくなります。医薬品は特許切れや後発品の登場、競合品の新規承認や追加承認に大きな影響を受けますので他社の動向チェックは不可欠になります。

自己免疫疾患領域

REMICADE®やSTERALA®と競合するHUMIRA®やSKYRIZI®を持つAbbVie(ABBV)やREMICADE®のバイオシミラーを製造販売するPfizer(PFE)などが競合になります。 

がん領域

抗悪性腫瘍剤IMBRUVICA®はNovartisのARZERRA®やバイオシミラーを作るBiogen(BIIB)などと競合しています。

肺高血圧領域

Acterionの買収によってラインナップに加えた肺動脈性肺高血圧症の治療薬OPSMIT®は英国GlaxoSmithKline(GSK)のVOLIBRIS®などと主に競合しています。

 以下が医薬品事業における昨年の売上高上位企業です。

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 JNJの売上高はヘルスケアセクター最大となっていますが、医薬品事業単体で見ると6番手となっています。しかし医薬品事業への開発費用はトップクラスになっていますので、近い将来さらに上位に食い込む可能性も高くなっています。

医療機器メーカーの競合

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医療機器事業は医薬品事業に比べニッチな領域が多く専門性が高いため1領域の専門的な企業が市場を占有する傾向があります。医療機器事業はアイディアや工夫によって付加価値が左右されるため領域を絞れば規模の小さな企業にもチャンスはあるのが特徴です。

そのためJNJの競合としては聞きなれない企業名が多くなりますが、その領域の医師や医療期間に対してはJNJ以上のブランド力を持っている企業もたくさんあります。

JNJは数多く抱えるどの事業領域でもTOPないしはTOPに近いシェアを持っておりマーケットリーダーとなっている点が特徴です。ほとんどの企業が1領域でTOPになれればすごいことですのでそれをいくつもあるのは驚異的ですよね。

豊富な研究開発費ももちろんですが販売部門の強さや長い歴史が育んだ医療業界(承認当局や医療機関、KOLと呼ばれるオピニオンリーダーなど)との強い結びつきや多少割高でも買収に積極的な姿勢が製品の育成と業界におけるポジショニングに寄与していることが想像できます。

 

外科領域全般や消化器外科領域ではMedtronic(MDT)と競合しています。

心房細動の経皮的治療機器を扱うBiosense Webster事業部はBoston Scientific(BSX)やAbbott(ABT)などと直接的に競合します。

整形外科領域はMedtronicStrykerGimmer Biommetなどと競合します。

現在開発が進んでいるロボット支援手術はIntuitive Surgical(ISRG)などと競合します。

 以下が医療機器事業における昨年の売上高上位企業です。

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これも医薬品事業と同様で医療機器事業単体で見ると売上高はMDTに続き2番手となっています。これもまた同様に医療機器事業においてもトップクラスの開発費を投入していますので、今後のランキングには注目です。 

まとめ

 いかがだったでしょうか。

JNJの強みは事業分散と積極的な研究開発への投資、そして徹底された収益化と株主還元志向があります。

今後は今まで以上に環境は厳しくなり競争も激化しますが、JNJはその中でも生き残ることができる可能性の高いディフェンシブな銘柄と言えると思います。

最後までおつきあいありがとうございました。

 

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