はじめに
今回のコロナショックの下落で多くの銘柄、セクターの指標が落ちています。
過去の下落局面を見るとITセクターやヘルスケア、一般消費材セクターは下落時も強く、回復も速やで、今回の下落局面においても強さを発揮しました。
また大手医薬品メーカーが新型コロナウイルスの治療薬の開発に乗り出しており、「COVID-19治療薬」がゲームチェンジャーとして期待されています。
このような状況を踏まえ、今後の投資先としてヘルスケアセクターを検討している人も多くなっているのではないかと思います。
ただし個人的にはヘルスケア企業だからといって個別銘柄に安易に飛びつくのは危険であり、少なくとも今投資を考えている人にとっては全体的に買い時はもう少し先だと考えています。
下落局面の早い段階で買えていたのであれば良いと思いますが、今の時点で期待感に煽られて割安感のない銘柄に手をつけるのは特に危ないでしょう。
また過去はセクター全体として成長してきたヘルスケア領域ですが、今後は企業によって明暗が分かれる可能性があります。
このような点を踏まえ、現時点でのヘルスケアセクターに投資するリスクを短期的観点から順にまとめていきます。
またこのような状況下でも期待できそうな銘柄を最後にまとめてみましたのでよろしければご参照ください。
*あくまでも個人の勝手な見解ですのでご了承ください。
- はじめに
- 短期・中期的リスク:COVID-19に医療資源を奪われて業績を落とす
- 短期・中期的リスク:COVID-19治療薬の開発失敗
- 中期的リスク:COVID-19治療薬が成功したとしても収益性が低い
- 中・長期的リスク:臨床試験スピードの低下による新薬発売の延期
- 中・長期リスク:医療機関の購入意欲が落ちる
- 中・長期的リスク:医療業界へのコストダウン圧力が更に増す
- 今の状況だからこそ投資したいヘルスケア銘柄
- まとめ
短期・中期的リスク:COVID-19に医療資源を奪われて業績を落とす
通常時にICUや手術で使用される製品は使用が減る?
COVID-19の患者にベッドと医療資源を取られ、緊急以外の医療サービスが縮小され医薬品や医療機器の売り上げが減ることが想定できます。COVID-19患者に使用する製品の販売は増加する可能性がありますが、それ以外の手術や治療が減りその領域にある企業の収益が落ちる可能性があります。特にCOVID-19の患者はICUのベッドを使用する場合が多いので術後にICUを使用する予定の手術で使用される医療機器は特にあおりを受けるかもしれません。
特に「不要不急」な患者に使用する製品
また現在、感染者数が多い国や地域では「今」治療しないと生命に支障をきたす緊急性の高い患者の医療を優先的に行い、多少治療を先延ばしにしても問題のない「待てる」患者の手術や治療を延期やキャンセルする傾向があります。手術室の空きはあるが手術が行えない状況が続くことが想定されます。
そうなると急性期領域の製品を揃えるヘルスケア企業やCOVID-19の影響をあまり受けない製品を持つ企業は売り上げを伸ばす可能性がありますが、病態の進行が緩やかな慢性期の患者を主に対象とする製品を持つ企業の収益性が落ちる可能性が高くなります。
このような観点で考えると、医薬品で言えば慢性期の継続して処方されるような医薬品や急性期医療に使用される医薬品は問題ないかもしれません。
*ただし、PFEの決算資料にもありましたがCOVID-19の影響でFDA承認に遅れが出てパイプラインの承認時期が遅れる可能性が示唆されています。短期的には問題はないかもしれませんが、事態が長期化した場合には注意が必要です。
以上を踏まえ、以下に各ヘルスケア企業への影響度あいを簡単にまとめます。
影響無~小
・Pfizer(PFE)のQ1決算発表ではCOVID-19による影響は+1%だったと報告されています。PFEはCOVID-19の影響をあまり受けない抗がん剤や抗凝固薬の売り上げが堅調に伸びています。また2015年に無菌注射剤分野のHospira社を買収して強化しておりCOVID-19により需要が増えており全体の収益に好影響を与えています。
https://investors.pfizer.com/investors-overview/default.aspx
・Merck(MRK)もQ1の決算発表ではCOVID-19の影響は通年で約21億ドルと見積もっており影響は限局的だとしています。
・Brystol-Myers Squibb(BMY)はまだ決算資料が確認できませんががん領域やウイルス性肝炎などを主領域としているため負の影響はあまり受けなさそうです。
・UnitedHealth Group(UNH)は医療保険とPBMという治療データを用いたコンサルのような事業が主のため影響は一定以下だと想定されます。Q4の売り上げも利益率が少し下がったのが気にはなるが好調な結果となっています。
https://www.unitedhealthgroup.com/content/dam/UHG/PDF/investors/2020/UNH-Q1-2020-Release.pdf
影響小~中
・Johnson & Johnson(JNJ)のQ1決算資料を見ると医薬品部門は免疫疾患、感染症、がん、肺高血圧、循環器を主領域にしているので問題はなさそうでした。逆に感染症領域や肺高血圧症治療の医薬品などはCOVID-19の影響で需要増になり売り上げを伸ばしていると報告されています。
JNJの医療機器部門は主に慢性疾患を対象としており、特に整形外科領域や手術関連製品を主力としており売り上げの7割弱を占めるので大きな影響を受けています。ただし売り上げ比率は医薬品部門が医療機器部門の2倍弱ありますので総合的に見ると影響は限局的と想定できます。ただし今後コロナの状況が長期化すると業績に与える影響が大きくなる可能性が高くなります。
https://johnsonandjohnson.gcs-web.com/static-files/ab8ded53-4e1e-400d-88d5-89ba1b5f3613
・Medtronicも整形外科領域や消化器外科領域を始めとした不要不急度が比較的高い慢性疾患を主領域にしているので今後の業績は厳しいかもしれません。ただしVV-ECMO(補助循環心臓)に使用する駆動装置や2015年に買収したCovidienが人工呼吸器を製造しており増産が想定されるので、通算してどのような結果が出るかは不明です。4月末の決算報告が待たれますが売り上げ比率などを考えると厳しように感じます。
影響大?
医薬品メーカーよりも医療機器メーカーが大きな影響受けるかもしれません。特にStrykerやGimmer Biometのような整形外科が領域で生命に影響する度合いが比較的低い手術器具を作るメーカーは売り上げが厳しくなることが想定されます。
・Strykerは3月末までの四半期では売り上げが対前年同期比で+2%と増加しており限局的でしたが、四半期が終わる間近になると収益は劇的に低下したと報告しています。4月以降の状況は不透明なため業績予測は行っていません。
短期・中期的リスク:COVID-19治療薬の開発失敗
2月24日にWHOがGilead Sciences(GILD)のレミデシビルがCOVID-19に効果がある可能性があると公表し、同26日に第3相試験を開始するリリースがあり株価が上昇しています。
3月30日にJohnson & Johnson(JNJ)がCOVID-19ワクチンを開発するため米連邦政府と契約するニュースを受けて株価は上昇しました。好決算報告を受けた勢いもあり株価は一気に下落前の水準までV字回復しています。
バイオ医薬品ファームでmRNAを活用した創薬に強みを持つModerna(MRNA)がワクチンを開発する報道が出た際にも同様に株価は上昇し元の2.5倍まで上がり維持されています。
他にも仏sanofi社、米Pfizer社、中国や日本企業などが開発に乗り出している企業もあります。
これらの創薬方法もMRNAのようにmRNA(核酸)をベースとしたワクチン、JNJのように組換えタンパク質を用いたワクチンなど様々です。
もちろん僕も一市民としてはこれらの治療薬の試験が成功して状況が快方に向かうのを期待しています。しかし現実的にはワクチンの開発成功率は100%ではなく、短期間の開発はリスクも伴い確率は下がると思います。
またワクチン開発のリスクは甘く見ることは許されません。下記のように2016年にデング熱ワクチンの臨床試験では数十人の子どもを始め多くの死者を出しました。
https://www.medicalonline.jp/news.php?t=review&m=topics&date=201807&file=20180702-NEJM-xx-T.csv
これはADE(Antibody Dependent Enhancement,抗体依存性感染増強)というワクチン接種が逆にウイルスを積極的に宿主の細胞に取り込むようになり、感染を促進させてしまう現象だったと推定されています。ワクチン開発の危険性を示唆する事象です。
このような解明されていない現象が臨床試験で起きたり、承認後に実臨床で起こってしまった場合のリスクは企業にとって高いでしょう。
また報道によるとMRNAのレミデシビルの開発成功率は20%との見解もあります。
新薬開発は一種の賭けであることを忘れてはならないと思います。
中期的リスク:COVID-19治療薬が成功したとしても収益性が低い
医療における市場規模は単純に分解すると症例数×単価で決まります。
これらの各要素で想定を下回るとその企業に収益をもたらさず実らない研究開発費や機会費用の損失により業績に陰を落とすかもしれません。
症例数:治療薬の市場がなくなるor小さくなる可能性があります。治療薬の開発より前に感染拡大が収束し、せっかく開発した治療薬が必要とされない可能性があります。実際にSARS感染拡大の時はワクチンが開発される頃には感染が収束しておりワクチンは不要になってしましました。せっかく世に治療薬が出てきても使われないor思ったほど使用されないという可能性に加え、副作用などの問題もクリアされないと使用が抑制され市場は思ったほど大きくならず継続しないかもしれません。
単価:今回の場合、治療薬の価格がどのように決まるかは不明ですし地域によって異なります。ただし地域や国で大小はあると思いますが公費が投入されることが想定されるので非常事態である今の状況を鑑みると薬価設定はそこまで高くならないと考えられます。また一般的に米国では薬価は企業が任意に決定でき高くなる傾向がありますが、今の状況で高い価格設定をすると非難が集まって企業の評判を落とす可能性がありますので出来ないでしょう。
これらを考えると、期待度とは裏腹に開発する企業にとって成功すれば名声を得られ長期的な成長要因になるとは思いますが、多くはリスクの高いボランティアのような感じですよね・・・。もちろん米連邦政府とは数百億円単位の開発契約を取り結んでいますのでコスト面のリスクは低いかもしれませんが、それ以上のものを失うリスクがあると思います。個人的には人類の危機に勇敢に立ち向かう企業という形で格好よく良い印象は感じますが・・・。
どの程度の収益を期待して株価が上がっているのかは不明ですが期待が高い分、期待に添えなかった時の反動は大きいかもしれません。大幅な減収に作用する可能性もあります。
もちろん感染拡大が今後も継続して大きな収益になる可能性があります。ただし、生活習慣病の治療薬などと比べると投薬期間は短く感染まん延期間が過ぎれば不良在庫化します。
これらを踏まえて一言で言えば、個人的にはCOVID-19治療薬に期待して開発企業の株を買うのは高リスク・低リターンだと考えます。
いくらJNJやMRKのように財務が磐石でも1千億円単位の研究費が泡となれば大きな影響を受けそうです。
以上が比較的早期に現れそうなリスクです。
以下、中長期的にありえそうなリスクをかんたんに挙げてみます。
中・長期的リスク:臨床試験スピードの低下による新薬発売の延期
医療機関や医薬品メーカー、FDAなどの承認当局がCOVID-19の対応に追われて臨床試験などの対応が遅れ新製品の発売が遅れる可能性があります。それどころではないものに関しては後ずれする可能性が高いのではないでしょうか。
中・長期リスク:医療機関の購入意欲が落ちる
「儲からない」COVID-19の治療に医療資源を奪われ、医療機関の財政状況が悪化して新規医療設備の購入や更新が滞る可能性があります。特に1台数億円もするような画像診断装置や手術支援ロボットなどは影響があるかもしれません。
中・長期的リスク:医療業界へのコストダウン圧力が更に増す
もともと米国ヘルスケア企業の主な収入源である米国のトランプ大統領は医療コスト削減に前向きです。米国以外にも先進国では高齢化、新興国では人口増加が進んでおり社会保障費用の医療における支出が増えています。
今後数年間ヘルスケア領域は年間6.9%の成長があるという試算もありますが、今回のCOVID-19の対応策として国の財政状況が悪化すると高収益を出すヘルスケア企業への風当たりが今以上に強くなり、価格が抑圧され企業業績が低迷する可能性があります。
今の状況だからこそ投資したいヘルスケア銘柄
自分でまとめていても思いましたが意外にヘルスケアセクターのリスクは多いですね。
そのような中でも成長を期待したい銘柄をピックアップしてみました。
僕もいくつかはタイミングを見計らって購入を検討しています。
ぜひご参照いただければと思います。
①Thermo Fisher Sciences(TMO)
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックは米国の科学関連サービス企業。主に製薬会社、バイテク企業、学術・政府研究機関、臨床検査室に各種分析機器、ラボ自動化システム、分析データ管理ソフトウエア、バイオサイエンス試薬、診断・検査キット、臨床検査管理、生物検体保管、分析テスト、サプライチェーン管理等のサービスを提供。(Yahoo!ファイナンス)
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/us/detail/TMO
理由:ヘルスケア領域における「つるはし」ビジネスモデル
TMOの主事業は製薬会社や研究機関が使用する各種分析装置やその支援事業です。製薬企業の開発競争やM&Aは激しくどの企業が生き残るか判断するのは難しいですが、それらの企業が研究開発を行うにあたり必要になる器具を提供する、「金鉱夫につるはしを販売する」ビジネスモデルの最大手です。積極的なM&Aによって規模や事業の幅を拡大しており、ヘルスケア領域の成長がある限り収益性を期待できる医薬品開発プラットフォーム企業です。
今の株価は割高でMorningstarによると24%のプレミア(5/7)が付いています。長期的に投資するのであればコストを分散し投資し、一括的に購入するのであれば少し様子を見た方が良いかもしれません。
②Merck(MRK)
メルクは米国の医薬品大手。医薬品、ワクチン、動物用医薬品、コンシューマーケア製品の発見、開発、製造、販売を行う。循環器・糖尿病、がん、骨・呼吸器、皮膚科・眼科、感染症、中枢神経、女性疾患の分野でブランドを展開。ペット用ワクチンや予防薬を提供。抗ヒスタミン剤「クラリトン」や便秘薬「ミララックス」などを扱う。(Yahoo!ファイナンス)
理由:研究開発も活発で新規領域へのチャレンジもあり、何より割安だから
前項でも触れましたがCOVID-19による影響は限局的で成長しに期待できます。研究開発費は世界トップクラスで2024年にはJNJとRoche社に続き第3位になることが予想されています。mRNAの分野でMRNAともコラボレーションしており、今後の成長に期待することができます。
財務関連は申し分なしで、バランスシートは年々スリムになって自己資本は少なくなる一方、売り上げや利益は拡大しており投資効率性が年々高まっています。その一方で現在の株価水準はMorningstarによると25%割安(5/7)となっています。今回紹介する三点ではすぐにでも買える銘柄かなと思います。
③Moderna(MRNA)
モデルナは米国のバイオ医薬品メーカー。メッセンジャーRNA(mRNA)を利用した医薬品の開発を手掛ける。細胞に指令を出し、細胞内たんぱく質を生成する新しい治療法を提供する。予防ワクチン、がんワクチン、腫瘍内免疫療法、局所再生治療法、全身分泌治療法、全身細胞内治療法などの分野で複数のパイプラインを保有する。本社所在地はマサチューセッツ州ケンブリッジ。(Yahoo!ファイナンス)
mRNA 医薬とは「メッセンジャー RNA(mRNA)を体内に直接投与して,mRNA によってコードされたタンパク質を標的細胞で発現させることによって治療を行う医薬品」です。よく分からないですよね・・・。今までの医薬品にくらべて効果が高く、安全で、様々な疾患に応用がきき、大量生産が可能でコストが安くなる可能性があるという特徴がありますので「すごい分野になる可能性を秘めている」というように認識すれば良いのかなと思います。
理由:新たなカテゴリーの可能性にかけて
MRNAはこのシンボルの通りmRNAによる創薬に特化したベンチャーで、現在臨床試験が進んでいるパイプラインの大半の開発を行っています。今後これらのパイプラインが上市され、mRNA創薬というカテゴリーが確立されていけば大きな成長は間違い無いと思います。今の株価はかなり割高で財務関連もリスクが拭えませんが、長い目で見れば爆上げする可能性も高いのでリスクを許容できる範囲で投資するのも面白いかもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
安定的というイメージがあるヘルスケア企業でも今の状況においては大なり小なりのリスクがあります。
個別銘柄への投資リスクを懸念される場合はヘルスケアセクターのETFを検討するのも良いかもしれません。
手軽に投資できるETFとしてはVHTやXLVなどがあります。
以下にまとめていますのでよろしければご参照ください。
最後までおつきあいありがとうございました。